episode263 臓器提供者①

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「今はあの時の目覚めに似てる」 不安げにぽつりと洩らす。 「苦しいの?」 「いや……」 なにか身体の様子が違うと気がついてはいるようだ。 「あの時は2人きりだった……今はただ……あいつが傍にいる気がする……」 僕は言葉を失った。 征司の乾いた唇はそれ以上何も語らなかった。 「今もここにいるのは僕たちだけですよ」 征司は本当は知っているんじゃないかと思った。 あるいは人の感覚は——言葉なんか必要としない。 自分の中に九条敬の一部が宿ったということ。 そしてそれによって自分が生かされたということ。 今後もずっと——そうして生きていくということ。 「九条さんなら今ホテルの用事で海外出張に出てるから」 ならばもっと嘘を。 分厚い嘘を塗り固めてゆかなければ——。 「おまえはどこにいた……?」 「どこにも。ずっとここに——」 僕にできることといったらそれくらいのことだった。
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