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「今はあの時の目覚めに似てる」
不安げにぽつりと洩らす。
「苦しいの?」
「いや……」
なにか身体の様子が違うと気がついてはいるようだ。
「あの時は2人きりだった……今はただ……あいつが傍にいる気がする……」
僕は言葉を失った。
征司の乾いた唇はそれ以上何も語らなかった。
「今もここにいるのは僕たちだけですよ」
征司は本当は知っているんじゃないかと思った。
あるいは人の感覚は——言葉なんか必要としない。
自分の中に九条敬の一部が宿ったということ。
そしてそれによって自分が生かされたということ。
今後もずっと——そうして生きていくということ。
「九条さんなら今ホテルの用事で海外出張に出てるから」
ならばもっと嘘を。
分厚い嘘を塗り固めてゆかなければ——。
「おまえはどこにいた……?」
「どこにも。ずっとここに——」
僕にできることといったらそれくらいのことだった。
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