episode263 臓器提供者①

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幸い椎名さんはすぐに僕に追いついた。 馬鹿みたいにあれこれ問いただすこともしなかった。 ただ無言のまま影のように真横について歩き 「中川さんから電話をもらった」 とだけ告げた。 僕は昨日来た道と全く同じ道のりを辿り ICUのナースステーションの前で派手に扉を叩いた。 「天宮さんのご家族ですね」 驚いて飛び出してきた若いナースが目を見開いた。 僕の顔に見覚えがあるんだ。 一度見たら忘れない顔さ。 「昨日僕と一緒にいたハンサムも来たろ?」 有難いことにもう一人も——。 彼女は助けを求めるようにナースステーションを振り返る。 ガラスの向こう。 先輩ナースだろう恰幅の良い女性が鋭い目で口をパクパクさせた。 無論僕らには何を言っているのか聞こえない。 それでも何か起こったことは空気だけでも分かった。 僕が寝ている間に——いや正確には眠らされている間に。 九条敬はここに来て何かをした。
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