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幸い椎名さんはすぐに僕に追いついた。
馬鹿みたいにあれこれ問いただすこともしなかった。
ただ無言のまま影のように真横について歩き
「中川さんから電話をもらった」
とだけ告げた。
僕は昨日来た道と全く同じ道のりを辿り
ICUのナースステーションの前で派手に扉を叩いた。
「天宮さんのご家族ですね」
驚いて飛び出してきた若いナースが目を見開いた。
僕の顔に見覚えがあるんだ。
一度見たら忘れない顔さ。
「昨日僕と一緒にいたハンサムも来たろ?」
有難いことにもう一人も——。
彼女は助けを求めるようにナースステーションを振り返る。
ガラスの向こう。
先輩ナースだろう恰幅の良い女性が鋭い目で口をパクパクさせた。
無論僕らには何を言っているのか聞こえない。
それでも何か起こったことは空気だけでも分かった。
僕が寝ている間に——いや正確には眠らされている間に。
九条敬はここに来て何かをした。
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