40人が本棚に入れています
本棚に追加
不本意にも。
「——まったく世話の焼ける」
「いやいや。今日はマシな方です」
対立していたナースの手で空いてる病室に運ばれた僕は。
「よく冗談なんか言えるね、こんな時に!」
「僕が騒いだところでオペを中断できるわけじゃないからね」
「非道だ!」
固い簡易ベッドの上に寝かされたまま
椎名さんに八つ当たりするほかなかった。
「何が非道だい?」
椎名さんは日の差すカーテンを閉めながら
目を細めてこちらを振り向いた。
「九条さんさ……どうしてこんなこと……昨夜僕が征司に肝臓をやると言った時、一度は承知したと見せかけて騙した……」
それも僕を夢の中に置いたまま、自分が提供者に名乗り出て——。
こんな大事なことを勝手に決めるなんて。
「いいや。彼を恨むのはお門違いもいいとこだぜ」
その時だ。
目頭を袖口で覆ったままの僕の腕をどけて。
椎名さんが真顔で言った。
「彼がどうしてこんな手段に出たか——僕は知ってる。中川さんに話を聞いたからね」
最初のコメントを投稿しよう!