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深刻な空気を打ち消すように。
「買い被るなよ。恩を売りたかっただけかもしれない」
椎名さんが僕を突つく。
「それとも君を独占したいがために、九条敬は天宮征司の身体にパラサイトして彼を乗っ取るつもりかもな」
一つも笑えない。
笑えないけれど――彼の馬鹿らしい考察だけが今の僕にとって救いだったことは事実だ。
「復讐かもね。これからは征司が僕を抱いても——体の中には必ず彼がいるんだ」
「そこまで考えていたとしたらゾッとするな」
僕はお愛想程度に首を横に振って言った。
「それでも普通は出来ないよ——出来たもんじゃない」
これにはあの椎名涼介も素直に頷いた。
「ああ。僕なら絶対恋のライバルに自分の内臓なんかやらないよ。むしろこう思うかもしれないな——このまま死んでくれたらいいのに」
椎名さんは僕の代わりに口に出してそう言ってくれたんだ。
「ああ……」
「君のせいじゃないさ」
そして僕が何も答えなくてすむように
「多分ね」
そっと僕を抱き寄せると冗談めかしてそう付け足した。
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