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「ねぇ、何してんの。」
もう一度ハチ公前に戻ろうと、センター街を抜けようとした時だった。人混みの中、歩道の端で振り返ると、そこには目を疑う出で立ちの女性が壁にもたれて立っていた。
背は胸の高さくらい、髪の毛は金髪というより白髪に薄い黄色を馴染ませた色に近かった。肌は焦げた茶色で、目はメイクのせいか人形のようにぱっちりとしていて不気味だ。少し低い鼻筋に、大きな唇。口紅は血のように照っている。白い無地のTシャツにジーンズ素材のホットパンツ。黒いハイヒールはやたらと細い。埼玉の奥で育った高橋にとってはあまりにも刺激的な見た目だった。
「ねぇってば。何してんの。」
慌てて我に帰る。目の前に立つギャルメイクの女性はよく見るとまだ10代のような若さがあった。
「いや、ぶらぶらしてただけ。」
自殺をする前に最後のセックスを探している、とは言わなかった。へぇーとだけ言って彼女は胸元まで伸びる毛先を指に絡ませていた。逆ナンパというやつだろうか。
「じゃあ1人なの。」
高橋は脳内で独りと変換したものの、忘れるように頷いた。きちんと微笑んでいるだろうか。
「なら良いや、スタバ行こうよ。」
二つ返事で了承しながら高橋は考えていた。この女性とセックスするのも悪くない。もちろん好みのタイプではないが、これほどまでに派手なメイクを施した女性と一夜を共にして死ぬ、なんだか最後に貴重な体験が出来るような思いだった。
先を歩く小ぶりな尻を追いかけ、高橋は傘の柄を握りしめた。
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