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道玄坂は大勢のカップルで賑わっていた。ラブホテルが集う場所が近いということもあって、すれ違う男女の距離も近い。2人は手を繋ぐことなく緩やかな坂を登った。高橋はぼんやりと考えていた。この後カレンとセックスをして、終わったらうまいラーメンを食べよう。最後の晩餐と性行為を終えて自宅に戻り、通販で購入した練炭に火をかけて睡眠薬を飲む。自分が死体となる計画はあっという間に決まった。
「ここ、オススメなんだ。何より安いし、備え付けで電マとかあるんだよ。」
振り返ってそう言うカレンの笑顔は、雨粒を避けているかのように輝いていた。こんな女性が彼女だったら、とあらぬことも考えてしまう。
自動ドアをすり抜けて、薄暗いエントランスに入った。右手にはそれぞれの部屋を映し出すサムネイルが壁一面に並んでいて、ほとんどが埋まっていた。真っ先に駆けていくカレンは迷うことなく、空室のサムネイルを指差した。
「ここがいい。」
いいよ、と言うと彼女は下の赤いボタンを押した。空が満に変わる。真後ろにあるフロントはほとんどが黒い壁で、真下にポストのような狭い穴があった。壁に近づいて高橋は言った。
「2時間で。」
「かしこまりました。」
若い男性の声だった。一度は高橋もラブホテルのアルバイトを考えたものだ。部屋の鍵を受け取ろうと、狭い穴の前に手を置く。
「本当にこちらのお部屋でよろしいでしょうか。」
一体どういうことだろうか。他にもっと設備の良い部屋上がるのだろうか。しかし今の2人はただ性行為をするだけである、カラオケ、ゲームなどといった設備は無粋だ。カレンが指定した203号室で、自分は人生最後のセックスをする。その決意は揺らがないのだ。
「はい、大丈夫です。」
かしこまりました、と言って壁の向こうの男は鍵を滑らせた。長方形のガラスに203と刻まれている。
既にエレベーターホールに立っていたカレンの隣に立ち、2人は降りてくる箱を待った。
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