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酒に酔って笑い合う男女の声や、コンクリートを踏み潰していくトラックの走行音、空から落ちる雨粒が時々窓にぶつかって、無色の夜を一瞬賑やかにする。私は自分の姿が反射する窓ガラスを前に、唇を動かした。
あいしているから
しあわせにするから
もどってくるから
から、から、から。空虚を繰り返しても一秒も時間は巻き戻らない。言葉の送り主は不在のまま。
本心を隠した言葉は幾ら持たされても満たされない。まるで枕に詰まった羽根のように、どんどんどんどん積もっていく。
他人の心の場所を奪って深い意味は持ち合わせず、無遠慮に層を成しては折り重なる。
いつかあたためた牛乳に張る薄い膜を、指で掬ってシンクに捨てた。あの時の感情がゆっくり解凍されていく。
自分のために言うのなら、そんな言葉たちは生まれない方が潔い。
行き場を失って誰かの奥底で疎まれるなら、今ここで殺してしまおう。
手向けの言葉を、あなたのためにしないように。あなたのものにならないように。
終わりを教えてくれそうな、夜の底に届けば良い。
誰も気付きはしないだろう、汚れた靴をそっと脱いだ。
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