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青年と少年、青年より。
「『諦め』と『我慢』は類義語だ」
「いいや、『諦め』と『我慢』は対義語だよ」
「嬉しいね、君と意見が対立するのは」
「婉曲的な表現だね、理由を訊いても良い?」
「終わりのない議論が始まるから」
「環状の?」
「綺麗な直線さ、一度だって元の話題には戻ったことがない」
「屈折しない直線は、地球を一周していつかまた交わるものだよ」
「結局それは環状じゃないか、そうじゃない、重力に負けない強い直線のことを云っているんだ」
「この世にそんな直線があるの?」
「さあね、これは比喩だから、ちょっとぐらいあり得なくたって許されるべきだ」
「知らない物事は比喩にはならないよ、語尾に『のようだ』が付属しない」
「少なくとも、とにかく強い曲がらない直線ぐらい想像できるだろう?」
「正解が分からない、水平線だって地球の形に曲がっているんだから、僕は見たことがない」
「そうかい、まあいい、話題が飛躍し過ぎたから元に戻そう」
「対義語だよ、辞書的には」
「違うな、厳密に云えば辞書的な対義語は『粘る』だ」
「つまり『我慢』じゃないか、どちらだって耐えて取り組み続けることだよ」
「適当だな」
「当然だよ、言葉は人間と違って浮気しても許されるんだ」
「なるほど、似た意味同士なら一方の対義語をもう一方の対義語だと捉えても良い、似ているなら別のパートナーでも問題ないと?」
「日本語はそこまで厳密じゃないからね」
「ヌーヴォーロマンみたいだ、綺麗な言葉を大切にしてきた文豪の作品に不誠実だな」
「ねえ、ちょっと無理矢理だよ、僕みたいに感嘆詞で良かったのに」
「残された言葉を大切にしよう、確かにヌーヴォーロマンはちょっとない、だが感嘆詞を使うのは俺のささやかなプライドが許さない」
「半分、折り返しだね、そろそろ半分くらいは気付いてきたかな」
「ヒントは『不自然な空白』と『ピリオドの欠如』だ、引き続き議論を進めよう、次は俺の番だ」
「二つを類義語だと云う理由は、ちょっと興味深いな」
「変に期待されても困る、これは君よりちょっと年上の俺が出した、大人の下らない結論だ」
「誇りを持ちなよ、君の意見だよ」
「曲げてくれるなよ『前向きな対義語』を、そう、まるで強い直線のように」
「見たことがないものを比喩に出されても困るんだってば」
「難しく考えないで良い、今回は地球を一周して交わっても良い、そこまで拘らないから」
「面倒だな使い分けが」
「もちろん、なんならそっちを議題にした討論に切り替えたって良いんだよ」
「やだよ、せめて君の意見を最後まで聞かせて」
「良いとも、俺はね、『諦め』さえすれば大概のことは『我慢』することができる、だから類義語だと云った」
「夢がない、確かに純粋な『諦め』だね」
「エイプリルフールよりもタチが悪い、世知辛くネガティブな大人の意見だけれどね」
「横文字を使いたがるね、君は」
「楽をして恰好良く賢そうに見えるから、俺は優位性をアドバンテージと云うし、問題解決をソリューションと云う」
「理由は子供じみてるのに」
「類義語と語った意味だって一緒さ、一般的な意見とちょっと違うことを云えばなんだか恰好良いだろう?」
「レベルが低いなぁ、もしかしてこの議論の本質は、ただ君が恰好をつけたかっただけなの?」
「『ろ』から始まる君の質問への答えが見つけられないんだけど、まあ、間違ってはいないな」
「『わをん』は難しいよ、せめて一人称が『私』とかなら良いけど、僕がそれを使うとキャラがぶれる」
「一人称が『俺』の俺にも難しいな、君お得意の感嘆詞や横文字を使ってみたら良かったのに、ワーカーホリックとかワールドワイドとかさ」
「うん、次からはそうしてみようかな、どうせまた同じように文頭を『あいうえお』にするルールでループしていくんでしょ?」
「エンドレスな議論だ、次はこのまま『重力に負けない強い直線』について話そうか、俺は君の云う『世界を一周していつか交わる直線』を『直線』だと思えないから、『直線』であるのは前者だけだと思う」
「……『を』に至っては文中でしか使えないから二周目は『わをん』抜きでやろうよ、で、それはどうしてだろう、僕にとっては後者だって直線だよ」
「『ん』だって感嘆詞しかないから俺には無理だ、アグリー、そして君の認めるその『いつか交わる直線』は、横から見たらやはり環状の曲線だ」
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