くまさん

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 今日は定期的にやってくるお楽しみの日。子供達へ寄付された玩具をまとめて、孤児院に届ける日だ。  ここで働き始めてまだ日の浅い神木だが、このお楽しみの日が好きだった。  施設の子供達には自分の感情や願望を抑え込んでしまうような子が多い。しかしこの日に限っては、どんな子も笑顔を堪えきれなくなってしまう。そんな子供達を見ていると、自分がここにいる意味のようなものを感じられるのだ。  だが、この笑顔を見るのも今日が最後。今月末、金銭的な理由により、この孤児院は無くなってしまうのだった。  だから今日は目一杯、彼らの笑顔を記憶に焼きつけよう。神木はそんなふうに思いながら、玩具の入った段ボールへ群がる子供達を見つめている。  その視線の先で、一人の女の子が段ボールの天辺に乗せてあったくまのぬいぐるみを手にした。  彼女は他の子供達のように仲間とその場ではしゃぎ合ったりしようとはしない。重たそうにそれをパズルマットのところまで運んでいくと、そこへ座り込んで座って一人遊びを始めた。  くまは薄汚れ、首の辺りには大きな穴も空いていたが、彼女はまるで気にしなかった。真剣な目、口は一文字に結んだまま、くまの手足を動かして、時々ふふっと幸せそうに笑った。  
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