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よりにもよってこんな時に。鐘の音があと数秒遅かったら男はその店の前を通過出来ていただろうし、数秒早ければその店の前を避けて通っていたところだろう。
男の行く手は押し寄せてきた群衆により阻まれた。
強行突破を試みたが相手が悪い。その群衆を構成しているのは毎日家計を守るために戦い続けている歴戦の猛者達だ。
「ちょっと!押さないでよ!」
と大きな尻に押し返されて尻餅をついてしまった。
両手がくまのぬいぐるみでふさがっていたため、強かに打った尻は痛い。
それでも止まっていられないと立ち上がろうとした男であったが、その時背後から声が届く。
「ようやく追い付いたぜ」
「手間かけさせやがって」
男が後ろを振り向くと、荒い息をした二人組がこちらを見下ろしている。
男は両脇を抱えられ、店と店の間にある路地裏へと連れ込まれた。表の賑わいが嘘のように感じられる程ひんやりとした薄暗い空間。隣の店は酒屋だろうか。従業員の扉の横には空瓶の入ったビールケースが積み上げられている。
路地裏へ連れ込まれるやいなや男は頬に一発お見舞いされた。倒れたところへ何度も足裏が降ってきて、抱えていたくまのぬいぐるみを奪い取られてしまった。
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