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今回の仕事は偶然大きな報酬を得る事になったが、そんな事は依田にとってただの幸運に過ぎない。これまでの仕事となにも変わりないものなのだ。
それなのに何故……
どれだけ考えても、自分がなぜこんな事になっているのか、依田にはまるで分からなかった。
パシュッ、と圧縮された空気が飛び出したような音が鳴る。依田は太股を押さえて倒れ込む。
「追って来れても面倒だからな」
冷たい目をした男はそう言って、手にしていた拳銃を懐へしまった。路地裏に広がっていく血だまり。それが自分の爪先の間近まで流れてくると、彼は踵を返して路地裏を後にする。
商店街に賑わいは相変わらずで、たった今起きていた出来事が嘘のように感じられた。
しかし数歩後ろへ戻った暗がりの中には、殴られた男と銃で撃たれた男が倒れている。世の中とはそういうものだという事をスーツの男は知っていた。
男はくまのぬいぐるみを抱いたまま商店街を進んでいく。平日の昼間、スーツ姿にぬいぐるみ。すれ違い様に好奇の視線を向けられる事もあるが、この人ごみの中では足を止めてまで見られる程異質な存在にはなり得ない。
それでも目立つように抱き抱えているのもどうかと思い、多少重量は感じるそれを片手で持って、足のほうへ下げたままで歩いた。
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