くまさん

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 時折後ろを振り向き、依田と田村が追いかけてきてはいないかを確認する。  命まで奪わなかったのは大事(おおごと)にして余計な障害を増やしたくなかったからだ。あの程度の傷なら、病院へ行こうなどとは奴らも思わないはずだ。  商店街はかなりの長さがあった。人ごみも少しずつ増えてきているようで、するすると先へ抜けて行く事も出来ない。  男は顔をしかめて時計を確認する。この後は、新幹線で別の街へ移動し、そこのホテルで一泊する予定になっている。  それから転々と移動を繰り返し、田村と依田が後を追ってこれないようにする。今回の思わぬ報酬を得た瞬間から二人を切り捨てる事を決め、準備を進めていた。  まさか先手を打たれるとは意外であったが、想定していなかったわけではない。それが当たり前の稼業だ。だからこそ田村に追いつく事ができたし、自分もそうする事を決めた。  腹立たしいのが、くまのぬいぐるみの重たさだった。その首根っこを掴んでいる掌は何度脱ぐっても汗が滲み出てくる。腕へかかる負担が大きいため頻繁に持ち直さなければならないし、かといって力を緩めると、ぬいぐるみはずり落ちてきてしまう。  田村は依田に比べれば馬鹿な男ではなかったはずだが、一体何故こんな物で運ぶ事を選んだのだろうか。
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