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そんな黒川がここでぬいぐるみを手放してしまった事は運命の悪戯と言うべきか。これが切っ掛けで、彼は報酬を一切得られぬまま今回の仕事を終える事になる。
もしかしたら常に最悪を念頭に置いている彼でも、ラッキーにまでは対処出来なかったのかもしれない。今回の仕事の稼ぎには幸運が上乗せされていた。それがなければ、田村が彼を裏切る事も、彼が仲間を裏切る事もなかっただろう。
地面に落ちたくまのぬいぐるみは、それを拾おうとした黒川の手が触れる直前のところで通行人に蹴飛ばされて転がった。
空かさず後を追う黒川であったが、ぬいぐるみは次から次へと蹴飛ばされ、コロコロ、コロコロ転がっていく。
屈んでその行方を目で追うも、行き交う人の足の群れにその視界は遮られる。とうとう黒川はくまのぬいぐるみを見失ってしまった。
さて。転がったぬいぐるみは商店街の出入口付近。とある店の軒下で動きを止めていた。
店のシャッターは下りている。そんなせいか、ぬいぐるみに目を止める者は一人もいない。大勢の人々の足がその前を通過していく。
そこへ鼻をヒクヒクさせながら近付いてきたのは、茶い毛のした一匹の犬だった。ぬいぐるみより少しだけ大きいサイズ。首輪はしておらず、全身に汚れが目立つ。
犬は念入りにぬいぐるみを嗅いでから、前足でコロコロとしばらく転がした後、それを口にくわえて運び始めた。
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