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10月19日、僕はいつもの喫茶店でコーヒーを飲んでいた。書き始めた手紙は、もうすぐ2枚目が終わりそうになっていた。
「……はぁ」
チラッとガラス越しに映った人影を見て、思わず溜息をついた。それと同時に、喫茶店のドアが勢いよく開いた。
「やっぱりここだった! ていうか全身黒って違和感ありすぎ!」
「……何か用?」
男性客の視線を集めながら、春日 菜々子(かすが ななこ) は僕の前に座った。当たり前のように。
自分に向けられたものではないとはいえ、見知らぬ男性からの視線は居心地悪かった。……だが、それも仕方ないことなのかもしれない。それくらい、春日の見た目は可愛らしかった。
「遊びに行こうって誘ったのに無視したでしょ?」
「ん?……あー……」
そういえば、そんな内容のメールを昨日もらったかもしれない。あとで返そうと思って、すっかり忘れてしまったらしい。
「ごめんごめん。今度な」
「またそれー!……あ、アイスティーで」
春日は頬を膨らまして不満げな声をあげながらも、注文をとりにきた店員に真顔で接した。
「いいんじゃんいいじゃん!どこか行こうよ!」
春日はめげずに喰らい付いてくる。まあ、いつもの光景だった。僕は手を止めて、春日を見た。
「春日、前も言ったけどーーー」
「あーあーあー聞こえませーん!」
「……」
春日は耳を叩きながら、明後日の方を見ている。僕の言うことを聞く気は、さらさらないらしい。
「はぁ……どうして……」
(僕なんかを好きなんだ)
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