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「ああ。……いつも持っていくんだ」
ーーーいつか枯れてしまうと分かっていても。
あの人は花が好きだった。
ーーー花は好きよ。
だから、手紙と一緒に毎回持っていくのだ。
「ふぅーん……本当に好きなんだね」
春日が複雑そうな顔でつぶやいたのに、僕は気付かないフリをした。
僕は、ずるい。春日の気持ちを知っているのに、ハッキリと告げない。
春日を傷付けたくないから、なんてーーー
詭弁だ。結局、僕は自分が傷付きたくないのだ。あの人の気持ちを、知りたくないのだ。
「なんて名前なの、その花?」
「……」
「え?」
僕は質問に答える代わりに、持っていた小さな本を差し出した。
「……“花言葉”?」
僕が差し出したのは、花言葉の本だった。春日は不思議そうにマジマジと見つめている。
「あげるよ、じゃ」
「あっ! ちょっと!」
春日の制止も聞かず、僕は喫茶店のレジに向かった。
「春日の分も払っておいたから」
「ちょっ!ーーー!」
春日に名前を呼ばれた気がしたが、僕はそのまま店を出た。
**********
「もうっ……人の気も知らないで」
一人取り残された春日菜々子は、不満げにポツリとこぼした。
「花言葉か……あれ、栞?」
もらった本には栞が挟まっていた。何気なくそのページを開くと、そこには見覚えのある紫の花が載っていた。
「これ、さっきの花だ。……えーと、花言葉……は……ーーー」
その花の花言葉に目を落とすと、彼女は目を見開いた。そしてーーー
「……馬鹿みたい」
涙がページに落ちた。
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