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アステロイド・ハンター
「ひゃっほーー。やったね。」
「おめでとう。今年10個目の命名権獲得。」
船のAIが大してめでたくもなさそうな不愛想な声で答えてくる。
俺はケント・ラキ。ここはアステロイド・ベルトと呼ばれる小惑星の集まる場所。アステロイド・ハンターと呼ばれるものたちが出没する。彼らは小惑星にマーカーを撃ちこんでシールドを張り、命名権を獲得してそれを売るのが仕事だ。
もちろん小惑星のプロフィール(成分はもとより形状や、チャーミングに見える角度)の画像つき。命名したらシールド上にその名前がカッコいいロゴになってプリントされる。
需要があるのか?
もちろんあるから商売になってる。自分の名前を付けたいやつもいれば、恋人にプレゼントしたいやつもいる。ハンティングしたアステロイドをアップすると、矢継ぎ早に値段を付けてくるやつが現れることもざらじゃない。当然、高額の値段を付けたやつが落札となる。
俺はカリグラフィーなんかもできるんで、かっこいいレタリングで名前をデザインしてやるから評判もいいんだ。そんなのはCGで適当に作れるだろっていわれるが、ちゃんと書いている動画付きだからな。それをシールドに展開するから他のハンターより高額なことも多い。
まあまあいい稼ぎにはなるが、ひょいひょいっと誰でもできる簡単なお仕事ではないことだけは確かだ。なにしろまず宇宙にいかないといけない。
大昔、日本という国が遠隔リモートで地球から指令を出して探査船を小惑星に着陸させてターゲットマーカーを打ち込んだという話だが、あいつらはクレイジーだからな。指令が届くのに15分以上もかかる距離で、どうやって確実に打ち込んだんだか。きっと東洋の神秘とかいうやつなんだろう。禅とかワビサビとかブシドーなんていうよくわからないもので、あいつらときたら何でもできるらしいからなあ。
今は近くまで船で行ってモビルスーツで現場近くから打ち込むのが主流だ。そのほうが確実だしコストが安い。ターゲットマーカーは打ち込まれると衝撃で薄いシールドのようなものが広がって小惑星を覆う。それで完了ってわけだ。
ターゲットマーカーには個別のアドレスがあって、それで登録する。宇宙で唯一の小惑星という証明になるわけだ。昔は同じ小惑星の所有権を取り合うこともあったようだが、いまはそういうことはなくなった。
はずだった。
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