沈黙の言葉が溢れたら

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「離婚しよう」  動揺する私をまるで慰めるかのように夫は続けた。  他に想う女性がいること、共通の友人を介して知り合ったこと。  夫を恨む気持ちはない。ただ、これが運命なのかと諦念にも似た感情は、まだ重かった。  本当は私も、取引先のある男性と惹かれあっていた。  彼がバツイチ独身と知って加速のついた想いを抱えながらも、実直な夫を裏切ることなどできなくて。  出会うのが遅かったと封じた筈の想いは、いつしか沈黙の言葉となって溢れ出る。  視線に潜む熱に、空気に滲む甘さに。  抑えるほど苦しいそれは、誰より互いが理解できた。  そして私達は離婚した。  こんな離婚もあるのかと、どちらからともなく顔を見合わせ微苦笑する。 「二人共元気で、お幸せに」 「ありがとう。そちらこそ」
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