23人が本棚に入れています
本棚に追加
「離婚しよう」
動揺する私をまるで慰めるかのように夫は続けた。
他に想う女性がいること、共通の友人を介して知り合ったこと。
夫を恨む気持ちはない。ただ、これが運命なのかと諦念にも似た感情は、まだ重かった。
本当は私も、取引先のある男性と惹かれあっていた。
彼がバツイチ独身と知って加速のついた想いを抱えながらも、実直な夫を裏切ることなどできなくて。
出会うのが遅かったと封じた筈の想いは、いつしか沈黙の言葉となって溢れ出る。
視線に潜む熱に、空気に滲む甘さに。
抑えるほど苦しいそれは、誰より互いが理解できた。
そして私達は離婚した。
こんな離婚もあるのかと、どちらからともなく顔を見合わせ微苦笑する。
「二人共元気で、お幸せに」
「ありがとう。そちらこそ」
最初のコメントを投稿しよう!