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その橋には境界線があった。工場や団地の多い下町の向こう側と、街の中心部や瀟洒な住宅街のあるこちら側。
こちら側で暮らす高校生だった私は、その違いをよく理解していなかった。
当時の私はこちら側の進学校に通い、友人の1人だった彼との友情と恋愛の間で揺れていた。
ある時、彼が就職希望だと知って何の悪気もなく尋ねた。
「進学しないの?」
「……できない」
数秒遅れた返答は、初めて聞いた冷たい声。
私は彼が奨学金を受けていたことすら知らなかった。
その日私達はいつものように一緒に帰ったけれど、橋の向こう側へと消えていく彼の背中はいつもと違って振り返ることもなくて。
分かり合えたのは、もう戻れないことだけだった。
大学生になった私は学習支援のボランティアを始めた。
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