必要なもの

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 同棲していた彼と別れた。彼に貰った香水だの2人で選んだラグだの部屋には思い出が多すぎて、引越しの準備が進まず滅入る。  そんな中タイミング良く連絡をくれた友人と話していると、その他愛なさを切り裂くように、こちらのどこかで火災報知器が鳴り響いた。 「火事?」  心配そうな友人に後で連絡すると約束して通話を切る。  外の様子を窺ってみたけど、煙は見えないし焦げ臭くもない。でも逃げる準備はしておこうと必要な物をバッグに詰める。  通帳、印鑑、化粧品、着替え……  誤作動のアナウンスは火災報知器と同じく唐突に流れた。  手を止めて思わずバッグを見遣る。  ……必要な物って、これだけなんだ。  込み上げた笑いを解放したら、力が抜けた。  一つ息を吐く。  断捨離でもしようかな。
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