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分かり合えなかったのは、君と僕、どちらかの所為じゃない。どちらが悪い訳じゃない。だけど高校生だった僕達は互いを推し量ることなどできなくて、それを理解したのはずっと後になってからだった。
あの日、君に背を向け踏みしめるように歩いた橋の上で僕の鼻を掠めた金木犀の香りは、それから毎年君と君の泣きそうな顔を思い出させた。
恨んだり。
嘆いたり。
悔んだり。
懐かしんだり。
実は今朝も出勤時に思い出したんだけど、仕事中に入った一本の電話が全て吹き飛ばした。
僕は急いで病院に駆け込む。
「……見て、あなたそっくり」
産まれたばかりの我が子を抱く妻はひどく美しく、窓から流れる金木犀の香りで彩られていた。
君を思い出すのは今日が最後かもしれない。
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