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私がそのカフェに通う理由は、美味しいからだけじゃない。マスターの程良い距離感やふにゃりとした笑顔でナンバーロックを合わせたように、恋をしたから。
だけどいつも帰宅時に立ち寄る私は、夕方で帰る奥様の存在を知らなかった。それを知った頃、既に季節は変わっていた。
誰も幸せにならない恋は諦めよう。
ただ最後に一つだけ。
バレンタインに差し入れと称してチョコビールを手渡した。
ありがとうと向けられる笑顔が痛い。
俯いて口にしたアマンドショコラがかりりと砕けて苦さが広がる。
「……もう少し甘い方がいいな。そう思いません?」
不意に同意を求める声がした。
マスターの弟という声の主とはその後親しくなり、明日、私達は結婚する。
でも兄に惹かれていたことは内緒だ。
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