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泣ける映画は食傷気味で嫌いだと言う君が、実は涙脆くそれが恥ずかしいのだと気づいた頃、僕はもう恋の直中にいた。
そんな君が余命を宣告されたのは僕達が結婚して暫く経った日のことだった。
まさか自分がとボヤきながら、時には悪化を恐れて泣きながら、強制的に与えられた数字に勝った君はからりと笑う。
「泣けなくていいよ」
その声は透明で、でもどこか頼りなくて。僕は改めて君を愛しく感じた。
けれども残念ながら時間は有限だった。君の白い顔はただ静かで、労うようにそっと唇を落とす。
直後、透明な声が聞こえた気がした。
それは僕の妄想なのかもしれない。でもどちらでも良かった。最後に君の声を聞くことができたのだから。
雨の午後、野辺の送り、僕は心で呟く。
——泣かないよ。
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