沈黙の言葉が溢れたら

行く道

　彼と初めて言葉を交わしたのは、いつだったか。
　このバーで知り合って、何となく惹かれて、家まで行くようになった頃には単身赴任中であることぐらい知っていた。
　家庭を壊すつもりはない。罪悪感もある。
　けれども既に止められなかった気持ちはどんどん欲張りになっていた。

　でも今は1人で過ごす年末年始の寂しさを飲み込むようにグラスを傾けている。仕方ないと理解していても、やはり侘しい。
　趣味でもあれば何か変わるだろうか……例えば？
　私は思いつくまま頭の中で挙げてみた。

　フラワーアレンジメント、ヨガ、料理。スキルに繋がる英会話？
　それを考えるだけでも少し気が紛れたのか、空気が軽くなったように感じた。

　そう、これでいい。

　行く道に想いを巡らせながら、私はグラスを置いた。