波間に立つ

2/2
前へ
/90ページ
次へ
 結婚を機に引っ越したエリアはお洒落な店が多く、行き交う住人達はキラキラしていた。  僕達は犬を飼い、犬を通して交流を広げた。  季節は過ぎる。  妻は周囲の影響を受け起業を決意した。  僕はただ毎日仕事に追われていた。  情けないけど、僕は妻に嫉妬した。  この手から離れないで欲しかった。  キラキラの世界から脱落した僕は、結局、離婚に同意する。  よく一緒に散歩した海岸、二人の顔色を窺っていた犬が僕の傍を離れなかったのは、毅然とした妻との違いを心配したのだろう。  色々と情けない。  でもその不甲斐なさを受け止めてしまえば、不思議と清々しかった。 「改めてよろしく、相棒。男同士仲良くやろうな」  遠ざかる妻の後ろ姿を見送りながら愛犬に声をかけると、ワンと一声、返答があった。
/90ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加