第五話 大概うまくいく

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第五話 大概うまくいく

『クリスマスに一番ほしいもの』 菜々美(ななみ)が生まれたときに、もしかしたらサンタは本当にいるのかもしれないと思った。 友達の弟や妹、飼っているペットなどを目にしても、かつての自分は何も感じなかった。 強いて言うなら『面倒くさそう』がそれらの生き物に対する印象だった。 別にサンタに妹をくださいなどとお願いしたわけではないのだが、クリスマスの頃に、ある日菜々美は僕の妹として家にやってきた。 まだぐにゃぐにゃで、寝てるか泣いてるか、ぼーっとしているだけの菜々美は、認めたくないのだが、幼少期の僕を虜にした。 彼女を見ていると、世の中で力のない弱い者や小動物の人気がある理由がわかるような気がした。 いい子のフリが得意だった僕に、両親は菜々美のお世話を率先してやらせた。 ゲームや勉強、友達や大人などはある程度自分の予測した通りの結果を出してくれたが、まだ話すことすらできない妹は、僕の意のままにいかず、それがかえって手応えがあり、ワクワクした。 物心ついた時には自分の心が多少の事では動かないことに気付いた僕は、周りの子供たちを冷めた目で見て見下していたのだが、妹のおかげで彼らを寛大な目で見られるようになった。 そして自分が中高生になった頃には菜々美をずっと安全な場所に置いておければいいのにと思い始めた。 それがムリなのかもしれないと感じたのは、彼女が(げん)を特別視し始めた辺りだった。 絃がその辺にいるような鈍感な少年であればよかったのだが、彼は僕が普通の兄ではないことをなんとなく感じているようだった。 そうだよ、絃。 僕は妹を手放す気なんてさらさらない。 君のせいで菜々美を失うことを恐れなきゃいけないなんて、おかしな状況だ。 君なんかより、はるかに長い時間を僕は菜々美と共有してきたんだ。 「絃くん」 君を近所で見かけると、僕はいつも落ち着いた声で話しかける。 「部活と勉強の両立、大変そうだな」 柔らかな言い方で話しかければ話すほど、彼は居心地の悪そうな顔をする。 気付き始めてるよね。 菜々美は僕という家族に既に大切に守られている。 だから調子に乗らないことだね。 気持ちとは裏腹に、僕は彼に笑みを向ける。 「またうちに遊びにおいでよ。前みたいにさ」 「あっ、はい」 余裕がなさそうな表情の絃は頬を引きつらせる。 それを見て、僕の脳の快楽回路が気持ちいいと感じているのがわかった。
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