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第一話 援助
出だしでつまずいた。
過去の自分の何がいけなかったのかと考えてみると、最初が肝心だったのだ。
絃はきっとうるさかったり、しゃしゃり出てくる女は嫌いだろうからと、私は彼に決して興味なんかありませんよという態度を取っていた。
幼馴染である彼を失いそうになっている今、そんなことを言っている場合ではないとやっと気が付いた。
歳の離れた妹の私にべったりな兄は、この状況を最高に嬉しそうに傍観しているが、すごく迷った末に兄に相談することにした。
「かわいそうに、菜々美はきっと絃との関係を恋愛と勘違いしたんだな」
デスクのイスをくるりと回転させると、兄はベッドに腰をかける私に憐れんだ表情をして、お前は恋愛とか慣れていないものなと深くうなずいた。
「違うの、お兄ちゃん。絃に対して今まで恋愛感情なんて皆無だと思おうとしてただけ」
深くため息をつく私に、兄はあからさまにイヤそうな顔をして、先日絃を駅前で見かけたが、えらく派手な女と一緒にいたぞと吐き捨てた。
「あんな女を選ぶなんて、お兄ちゃん絃のこと理解できないなぁ」
「お兄ちゃんは誤解してるだけ。あの女が勝手に絃の周りをウロチョロしてるの」
彼が他の人のところへ行ってしまいそうになって、初めて取られたくないと感じたと素直に自分の気持ちを言った。
兄に相談したところでいい答えはあまり期待できないが、私は間違っていないと言ってほしかった。
「・・・。勝ち目はあるのか?」
やれやれという顔つきの兄から目を逸らすと、私は簡単にはいかないと思うと小さな声で言った。
兄はまったくと言うと、再びデスクの方にイスを回転させて、昔から骨の折れることばかり頼んでくるなぁと呟いた。
「今度絃に会ったら、それとなく菜々美とその女のこと聞いてみるよ」
「ホント?」
ああと言う兄に、ホントにホント?としつこく何度も肩を掴んで確認すると、兄は信用しろと吐き捨てた。
絃はまだあの女のものではないだろうが、彼を取り戻せる可能性が出てきたと私は嬉しくなった。
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