かしこみ、かしこみ。

3/10
前へ
/10ページ
次へ
 そんな風に考え込んでいると、カシャカシャカシャカシャ……と、スマホで連写するような音が、背後からきこえた。  とっさに振り向く。  境内に満開に咲くしだれ桜の前。そこに、190センチはありそうな、ヒョロ高い男性の影が見えた。  茶色い髪、白い肌、高い鼻と大きな目。あ、外人さんだ。たぶん二十代後半くらい、精悍な顔立ちはちょっと、この前ロードショーで見た若いころのトム・クルーズに似ている。  でもなぜか、洗練された顔立ちに不釣り合いなものを羽織っていた。あれ、なんていうんだっけ……あ、印半纏(しるしばんてん)?  そんなトップガン印半纏の外国人男性は、しきりにタブレットのカメラでしだれ桜の写真を撮影している。なんか、ちょっと浮かれた観光客とかだろうか。そう不思議に思いながら、思わず、彼に近づいていってしまう。  彼との距離残り三メートルくらいのところで、「あ、わたし、英語できない」と気づいたけれど、もう遅かった。彼と目が合ってしまう。 「は、はろぉー……?」  しばしの沈黙に耐えられなくなって、百パーセント日本人の発音で、挨拶をする。あぁ、なんだか、馬鹿丸出した。それでも、彼はていねいに、そして満面の笑みでぺこりと頭を下げた。 「ア、コンニチハ!  申シ訳ゴザイマセン、オサワガセシテオリマス」  ……めっちゃ日本語上手じゃん!発音すらカタコトだけど、なんて丁寧な物言い。見た目とのちぐはぐさに、つい吹き出しそうになってしまう。  いけないけない、こらえろわたし。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加