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そんな風に考え込んでいると、カシャカシャカシャカシャ……と、スマホで連写するような音が、背後からきこえた。
とっさに振り向く。
境内に満開に咲くしだれ桜の前。そこに、190センチはありそうな、ヒョロ高い男性の影が見えた。
茶色い髪、白い肌、高い鼻と大きな目。あ、外人さんだ。たぶん二十代後半くらい、精悍な顔立ちはちょっと、この前ロードショーで見た若いころのトム・クルーズに似ている。
でもなぜか、洗練された顔立ちに不釣り合いなものを羽織っていた。あれ、なんていうんだっけ……あ、印半纏?
そんなトップガン印半纏の外国人男性は、しきりにタブレットのカメラでしだれ桜の写真を撮影している。なんか、ちょっと浮かれた観光客とかだろうか。そう不思議に思いながら、思わず、彼に近づいていってしまう。
彼との距離残り三メートルくらいのところで、「あ、わたし、英語できない」と気づいたけれど、もう遅かった。彼と目が合ってしまう。
「は、はろぉー……?」
しばしの沈黙に耐えられなくなって、百パーセント日本人の発音で、挨拶をする。あぁ、なんだか、馬鹿丸出した。それでも、彼はていねいに、そして満面の笑みでぺこりと頭を下げた。
「ア、コンニチハ!
申シ訳ゴザイマセン、オサワガセシテオリマス」
……めっちゃ日本語上手じゃん!発音すらカタコトだけど、なんて丁寧な物言い。見た目とのちぐはぐさに、つい吹き出しそうになってしまう。
いけないけない、こらえろわたし。
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