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いかん。
なんか思い出してはいけないことを思い出しそうになった。
私はあきらかに熱の上がった頬を冷まそうと手でパタパタする。
ふぅん、とローブの人物ーー赫金の魔女は意味ありげに笑った。
見えないけど、絶対笑った。
なんだか悔しくて、私は腕を伸ばす。
フードをひっぺがすと、彼女の呼び名の謂れである赫金色の髪が溢れ落ちて白い頬を掠める。
赤い目、赤い髪、赤い唇の子柄な魔女は私と目が合うとケラケラと喉を鳴らして笑い声を上げた。
「ま、いいけどね。どっちでも私には関係ない話だし。で?夢だったって思い込むように暗示をかけてほしいって?」
「できるよね?」
私が意気込んで訊くと、魔女は幼い顔に似合わない妖艶な仕種で唇を指でなぞった。
「そりゃあ、魔女の秘薬があればできるはできるけど?ただし本当にただ「あれは夢だった」って思い込むだけだよ?やっちまった事実は消えない。いつまで保つかも保証はできない。所詮はただの暗示だからね。まあ上手くすれば一月は保つかな?」
「それだけ保てば充分だよっ」
一月もあればお互いなかったことにできる。
きっと、たぶん。
一月夢だと思っていたものを一月してからあれ?現実だったかも?なんてなってもわざわざぶり返そうとはしないよね?
だってそれがお互いのためだし。
その方がお互い都合がいいはずだし。
「報酬は?」
「いつも通りで。使用済みバスタオルとガウンでどう?」
それが私が持ち出せるMaxな品だろうと提案する。
さすがに使用済みパン○は持ち出しにくいし心苦しい。
「乗ったっ!!」
バンッ!とテーブルを両手のひらでぶっ叩いた魔女がいそいそと立ち上がると幾重にも立ち塞がるカーテンの檻の奥へと消えた。
さほど時間を置かずに戻ってきた魔女の両手には一本ずつ同じ色の液体の入った小瓶が。
「こっちは今ルーに使う分」
そう言って、私の前の湯呑に小瓶の中身を注ぐ。
トロリとした液体がミルクと混ざって消えた。
「無味無臭だから、味は心配しないで飲んで。飲んだら暗示をかけるよ。んでこっちが氷の貴公子(笑)に飲ませる分ね。それもルーに飲ませなきゃならないって暗示をかけておくから。で、貴公子がルーの瞳を見たら向こうも暗示がかかる。OK?」
「……うい!でも報酬はどうしよう?」
暗示はかけられたことを忘れてしまう。
当然、報酬のことも忘れて忘れてしまうのだ。
「それはコレの代金ってことにしよう」
コトン、と魔女はテーブルにもう一つ紙に包まれた何かを置いた。
「堕胎薬だよ。一月後にもし妊娠の兆候があったら使っても使わなくてもいい。何かよくわからないけど一月後に必要になる薬って認識で深くは考えないようにしておくから。ルーはコレの代金で私にレニー様のふふっ使用済みバスタオルとガウンを持ってくるんだ」
……あ、妄想してるな。
へニャリと崩れた頬を、私は見なかったことにする。
赫金の魔女こと、メリー・メリー・ポリンプ16才と私が出会ったのは今からニ年前。
お嬢様のお使いで魔女の庵を訪ねたのが最初。
それからというもの月2ペースで通い詰め、今では知己といえる間柄なのだが。
由緒正しき魔女の家系のメリーは、私の弟に惚れている。
初めて庵を訪ねた際、荷物持ちに連れてきたレニーに一目惚れしたらしいのだ。
おかげで高価な魔女の薬や美容品やらを己の懐を傷めずに頂ける。
イケメンな弟を持ってお姉ちゃんはウレシイよ。
これまでメリーにお支払いした代金はレニー使用済みハンカチにネクタイに靴下に羽根ペンにその他もろもろ。
使用済みを欲するところが変態臭い。
臭いつきならなお良しらしい。
それらを何にどう使っているかは考えてはいけない。
魔女なのに惚れ薬を無理矢理飲ませないでいるだけとっても安全で可愛らしい変態だと思うよ!
弟よ、ゴメンね。
お姉ちゃんは平穏のために弟を売ります。
本体じゃないから、別にイイよね!?
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