序章 太陽の終わり

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序章 太陽の終わり

 尋ねると彼女達は決まって笑った。  想い人がいた者、将来に胸を膨らませていた者、新しい家族が出来たばかりの者、十歳に満たない幼子。  年齢も生い立ちも心境も、生まれた時代すら異なるというのに彼女達が浮かべた笑みはみな共通の何かを内包していた。  それは悲嘆か、絶望か、未練か、諦観か。  けれどもそれを的確に言い表す言葉はない。彼女達も自身の中にあるその感情が何であるかをはっきりと認識しているわけではなかった。  だが、故にこそ彼女達は笑うのだ。  もう何度目になるだろう。  自分の血を分けた者を〝子〟と呼ぶのなら。あるいは血でなくてもいい。自分が持ち得る愛情や知識を分け与えた者を〝子〟と呼ぶのなら。  彼女達は間違いなく私の〝子〟だ。  娘同然の彼女達に、私はいつも残酷な選択を迫る。否、拒否することの適わない選択など選択とは呼べないのかもしれない。  そうして最期の時を幾度となく看取ってきた。 『いいんです。それでみんなが助かるなら』  優しい子達。  何かを与えるために何かを奪い、一つの有を生むために一つの有を摘む。悲しい理。覆すことは本当に叶わないのだろうか。  もしこれが不変だとしたら。  何かを犠牲にしてしか成り立たない未来は、本当に美しいか。  希望は、光は、誰かの慟哭の上に降り注ぐものなのか。  ――だとしたら、希望はあまりにも偽善で。  光は輝かしくも儚く。温かくも切ない。
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