7人が本棚に入れています
本棚に追加
1
不意の口づけで、口紅がはみ出してしまった。
「龍樹、こっちでやるつもりねぇの?」
拠点にしているライブハウス、ジーラスに車を走らせながら、崇純さんは僕に聞いた。
「機会があればやりたいですよ、僕も」
名古屋のバンドシーンの中心でもあるジーラスは、田舎でバンドをやっている僕にはやっぱり憧れだった。
崇純さんのバンド、ナイトメアは既に全国レベルで名前が売れ始め、ジーラスでやることは減っていたけど。でも、今日は久しぶりのジーラス。
そして、僕はそのナイトメアのローディー。崇純さんは家が結構近いこともあって、よくこうやって迎えに来てくれていた。しかし、メンバーに送ってもらうローディーって…。僕はまだ高校生だから、しょうがないんだけど。
「でも、僕のバンドじゃ無理ですよね」
「半端だもんなぁ、お前んとこ」
「そう思います? やっぱり」
普段から自分でも思ってるんだよね。崇純さんに言われると、逃げ場がない。
「いい話、あるんだけどって言ったら?」
「え?」
「お前は出られるかもしれないぞ」
「どうやって?」
最初のコメントを投稿しよう!