花言葉は望郷

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「陽動って?何のために」 玲奈は猛攻を耐え忍ぶが魔力は無限ではない。 「わからない。でも彼女、花を手向けると言ってたわね?」 「献花がどうした?まさか大量破壊兵器だと」 「そのまさかなのよ。貴女の中二脳でピンとこない?」 「そんな事を言われたって、花と言えば花言葉」 故人に贈る花は宗教差がある。基督教徒は花をささげる。白菊を供えるのは…。 「來未は仏教徒なのかい。花言葉は真実だね」 「それをわざわざ私達に仄めかす意図は?」 「復讐を果たすか、暴露する時間稼ぎだろう。幸い、マスコミは集まってるし」 そこまで聞いて真帆は來未の行動に政治的の影を感じた。マウサウに関するあらゆる経済データを再検討する。 「ちょっと待って、食品の輸入が矢鱈増えてる。飢饉でも起きるの?」 接近警報が会話を中断した。”荷電粒子ビーム!来ます” 「—ッ!」 ミストラルは爆装を棄てて身軽になる。右へ、左へ大きく翼を振る。ギリギリの攻防だ。 ◇ ◇ ◇ 何もかもが灰燼に帰した死の荒野。その奥底に文明の残滓が息づいてる。 「お花を供えにきた」 骨灰に埋もれたシェルターで少女が語りかけた。話し相手は大統領の頭蓋だ。 「謀略なんて花言葉に因むから悪いのよ。お前はそうやって私の人生を、心を支配しようとした」 來未は外交官の子女だった。マウサウ人は人柄もよく結婚相手に事欠かない。 受動的政略結婚と形容すればいいか。放っておいても有力者の良縁に恵まれる。 「いい名前ですね」 來未も緑豊かな故郷の風習に沿った女性らしいファーストネームを授かった。 知恵という花言葉に恥じないよう、両親の期待に応えるべく勉学に励んだ。 その甲斐あって、子供に恵まれたのだが。 「そんな名前は駄目よ」 「いいから俺に従え。この娘のためだ」 「怒号は胎教によくないわ」 「うるさい!これは命令だ」 駐在武官だった夫はベラドンナ案を押し通した。「静かでおしとやか。いい名前だ」 不安を感じた來未は真意をただした。 しかし夫ははぐらかし、彼女を張り倒した。 ベラドンナ…彼女は金、人脈、コネを駆使して事なかれ主義を突破し、遂に秘密を暴いた。 花言葉は裏切り、男を篭絡する。 ”それで特権者と契約したのか?命名の呪縛から民を解放せんと?” 大統領の遺志を宿した箱が尋ねた。中央統御装置。もはやどちらが主かわからぬ。 そうよ、と彼女は言い捨て、シェルターごと弾けた。 ◇ ◇ 「傀儡と判ったら全力で本気出す!」 玲奈はありったけの火力を投射して敵を瞬殺した。火の玉が乳白色の大地を焦がしている。 「來未はどこ?、つか、貴女、なにやってるのよ」 むず痒さを感じて、艦を省みた。妹がマウサウ人を徹底研究している。 「マウサウ人の秘密を暴いたの!」 「ちょ…人の艦を…」 玲奈が妹を叱り飛ばそうとした瞬間、強烈な振動に襲われた。ミストラルが姿勢制御を喪失。錐揉み状態に陥る。 機体が”アンコントロール”を連呼する。 「お姉ちゃん!」 サンダーソニア号のカメラが輝点を確認した。ミストラルが玲奈ごと爆散する。 そして、あろうことかレーダー照射を受けた。グレイス号にロックオンされている。 ”やっと願いが叶う!”
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