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「なぁんも無し、じゃ」
位牌を撒いたような白無垢で広大な荒野。
「あいつらのせいじゃ。きれいさっぱり、なぁんも無しじゃ」
老女は世の無常を嘆いて側頭部を撃った。
緑豊かな惑星マオサウは辺境銀河随一のリゾート地として栄えていた。
鬱蒼と密林が生い茂り、ひと時の冒険を求めて老若男女が群れ集う。素敵な人外魔境に恋の花がさいた。
そして、あっと言う間に枯れ果てて三十億人が死んだ。正確には行方不明者だ。が、すっぽりと灰で覆われた大地に人影はない。
人類圏の何処か目指して船が旅立った様子もない。短期間に億単位の人が消えたのだ。
「断言します。これは、テロです」
国連大量破壊兵器撲滅委員会は安保理決議を受け、傘下の白夜大陸条約査察機構に調査を下命した。
所属する国連平和創造軍は官民からなる生え抜きの精鋭、通称ハンターギルドを非常招集した。
「私が出向かなきゃいけないわけ?」
少女はうんっと背伸びすると、長い髪をかき分けてエルフ耳をそばだてる。
「ええ、貴方様は鎮守府探題でしょう。創造軍を動かす強大な…」
「はいはい。三千世界最強の航空戦艦。その肩書に飽き飽きしてんの。背負うには重すぎる」
彼女はビキニ姿の背中に翼を束ね。トップスとスカートを身に纏っていく。
「しかし、貴方様が動かねば…」
創造軍の最高権力者。三本線の入った襟元に幾多の褒章、宝珠が天の川を描く。
ふうわりと黒髪を翻し、人差し指を左右にふる。
「お☆こ☆と☆わ☆り」
「ちょ、探題。サンダーソニア探題」
エルフ耳がぴょこんとそばだつと総司令部の具申を遮断した。正確には、彼女の随意神経が艦の通信回路に量子共鳴した。
そして、あふぅと背伸びすると、巨艦の可変翼が水平に開き、主機関に点火した。
そのまま虚実直交座標ドライブを介して形而上へ跳躍する。
サンダーソニア・オーランティアカ。花言葉は望郷。その名の通り、超長距離を渡り歩く人類圏の守護女神だ。
十万トン級の巨躯は美しい裸体の延長。思いの丈を一振りすれば超光速航行文明を七つ分、石器時代水準まで退化できる。
それも同時にだ。彼女を怒らせたら怖い。
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