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1.憂鬱な季節
智夏にとって、とても憂鬱な季節がやってきた。
チームSATOさんの面々は、ただ一人を除いて皆運動が得意だ。
まず、沙弥。
常に動いていないと死ぬタイプの、非常に落ち着きがない人間。なので、言うまでもなく運動神経は良い。ものすごくタフ。無駄にスタミナがある。タービンでもつけておけば、勝手に発電してくれそうだ。
世の中に数多くいる、そういうタイプの人間には、簡易発電機を取り付けてみてもいいのではないだろうか? きっと、自然に優しい再生可能エネルギーになるはずだ。
それはさておき、明穂。
彼女は陸上部に所属している。ただしメンタルについてはめっぽう弱い。勝負弱い。しかしながら、体力についてはバッチリだ。以上! 問題なし。
そして、緒美。
しなやかな体つきで、健康と美容の為に日々のトレーニングを欠かさない。運動部に所属しているというわけではないけれど、運動を日課にしているのだった。際だって運動神経がいいというわけではないけれど、苦手ということもなかった。
というわけで、残ったのは智夏となる。
「あ~……。マラソン大会なんて、この世から消滅すればいいのに……」
このインドア派の地味少女は、この所毎朝続く朝練が憂鬱で堪らないのだった。
そう。
数週間後に待ち構えている、マラソン大会の準備だ。
「そもそも、短距離走が得意な人もいるのだから、一律に長距離を走らせるっていう教育には、疑問を感じるよ。どうなのそれ?」
ジャージ姿の智夏は暗~い顔で、何やらぶつぶつと文句を言っている。
それを横目に、緒美がおかしそうに微笑みながら言う。
「適当に、ゆっくり走ればいいのよ」
「緒美ちゃんはいいよ。運動神経いいから」
「別に、いいってわけでもないわよ。あの二人に比べたらね」
緒美は、少し離れた所でストレッチをしている二人に視線をうつした。
「沙弥ちゃんはまぁ……ね。明穂ちゃんも、運動部だし」
準備体操を終え、やがてフリーランニングが始まる。
緒美はあえて、智夏のゆったりペースに付き合ってくれる。
「いいよ。私なんて放っておいて、先に行っちゃって」
「あなたを置いてはいけないわ」
「気にしないで、行けばいいのに」
すると緒美は、気になることを言った。
「知らないかもしれないけど。あなた。体育の時間に、自分が男子達からどんな目で見られていると思う?」
「え?」
その一言に、きょとんとする智夏。
「その大きな膨らみは、思春期真っ盛りの男子達には、さぞかし魅惑的に感じられるところよね」
「……!」
大きな膨らみ。それは、胸のこと。
チームSATOさんの中で最も大きいそれを、智花は慌てて腕で覆って隠すのだった。
たとえゆったりしたペースであっても、ジャージの上からでもわかるくらい発育のいい膨らみは、規則的なリズムでたゆむ。
「もしかして緒美ちゃん。鈍足な私と一緒に走っているのは……」
自分の側にいて、男子達がさりげなくちらりちらりと向ける視線から、隠してくれていたのだ。
「何の事かしら?」
にこりと笑う緒美だった。
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