2.初恋は記憶の底に

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この前直接サッカーボールを手渡したときに無反応だった時点で、星野くんが私を覚えていないことは薄々わかっていた。 わかっていたけど、面と向かって「わかんねー」とか「誰だっけ?」とか言われると、地味にショックだ。 いや。地味どころか、めちゃくちゃダメージが大きい。 しかも、昔と変わらない柔らかな笑顔で村田さんのことを『トモちゃん』なんて呼んでいるものだから、なおさら。 石塚くんは村田さんを昔からのあだ名で『トンカ』と呼ぶのに、星野くんが彼女を『トモちゃん』と呼ぶことに何か意味があるのではと勘繰ってしまう。 それなのに、『トモ』って響きだけは私の名前が呼ばれたように錯覚しそうになるからやるせない。 「えー、ほんとに?カナくんだって、同じクラスになったことあったでしょ?」 「かもしれないけど、小学生って何年前だよ。仲良いやつなら覚えてるけど、同級生って他にもたくさんいるじゃん」 村田さんのほうを向いた星野くんは、もうちらりとも私を見なかった。
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