2.初恋は記憶の底に

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教室のそばまで戻ってきたとき、ジャージ姿の男子が前側のドアからうちの教室を覗き込んでいるのが見えた。 体育用のそれとは違うから、部活用のものなのだろう。 上半身をドアの向こうに乗り出しているから顔は見えない。 クラスメートの誰かかな? 「カナキ、竜馬、まだ?」 ぼんやりそう思っていたら、その男子が星野くんと石塚くんの名前を呼んだから思わず跳ね上がりそうになってしまった。 星野くん、まだ教室にいるんだ…… そう思った途端に心臓が早鐘を打ち始めて、どうすればいいのかわからなくなる。 教室に入っていくことはできないから、とりあえず後方のドアの横の壁に背中をピッタリとくっつけて立ってみた。 呼吸をするのも忘れて息を飲んでいると、教室から星野くんの声が聞こえてくる。 「悪い、(ケン)。竜馬が今日までの提出課題忘れてたって。これ出さないと、部活行かせてもらえないっていうから、俺のやつ見せてる」 「竜馬、早く終わらせろよ。試合近いんだから、練習遅れられねーだろ」 「もう終わる」 「おぅ、急げ」 そう急かしながら教室に入っていくジャージ姿の男子は、おそらくさっき野宮さんたちの話題にのぼっていた槙野(マキノ) (ケン)だ。
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