1.微かな希望

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「すいません。ありがとうございます」 私が振り向いたのと、駆け寄ってきた男子生徒がそう言ったのはほぼ同時だった。 「いえ」 さっと渡して去ろうと短く言葉を返して視線を上げる。 そのとき初めて男子生徒の顔をまともに視界に入れた私の呼吸が、一瞬止まりそうになった。 え、嘘…… 大きく目を瞠って静止する私を見て、彼が不思議そうに首を傾げる。 「あの、ボール……いいですか?」 私が拾ったサッカーボールをなかなか手渡そうとしないので、彼が困ったようにそれを指差した。 「あ、ごめん……」 ハッとして慌てて手を離すと、まだ受け渡していなかったボールが地面に落ちた。 「どうも」 ちょっと笑った彼がそう言って、バウンドしたサッカーボールを器用に足で蹴り上げる。 そのまま校庭のほうにくるりと踵を返すと、ボールを蹴りながら走って行ってしまった。
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