土産

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「写真とかはないのかい? 月から青い地球を撮ったものとか、ほら、『宇虫』とか」 「言うと思ったよ。残念だが、電子機器の持ち込みは全て禁止されているのさ。絵葉書なら月のホテルで売っていたんだけど、それでは君は満足しないだろうと思って買わなかった」 「そうか、残念だな。月から手紙でも出してくれたら面白かったのにな」 「そういうサービスがあっても面白いな」 「旅行会社のアンケートとかで要望はできないのかい?」 「アンケートか。探してみるよ」 「そうだな、是非」 「ははは、了解」 「そう言えば、土産の品を開けてもいいかい?」 「勿論」 「これは……お饅頭かい?」 「ああ、月饅頭さ」 「月で饅頭か、これは驚いた」 「変わり者の君があっと驚くようなものをあえて買ってきたのさ」 「でもてっきり、月の形をした饅頭かと思ったら、こげ茶色なんだな」 「出来立ては黄色いんだが、蒸し器から出したとたんに紫外線を吸収してしまうからな」 「それに、てっぺんのこのマークはなんだい? 丸いお皿から3本の湯気が出ているみたいなんだが」 「それは、ほら、見る方向が逆さまなんだよ。丸いのが上で3本足。それがさっき言った『宇虫』さ」 「こんな形だったのか」 「そうなんだよ」 「これが『宇虫』か……」 「ああ、『宇虫』さ……」 「それで、夏休みの家族旅行は湯河原かい?」 「失礼だな、もう少し先、熱海だよ」 「そうか、熱海だったか」 「魚がとても美味くてつい食べ過ぎてしまったよ。海の混雑振りときたら人がまるでフナムシのようだったが」 「それは災難だったな。そんな所にいたら月にでも行きたくなるのも無理はないな」 「それで、本当に月旅行を楽しめるようになるのはいつ頃になりそうだい? NASAの研究員である君の見解を聞きたい」 「そうだな、月で饅頭が買えるとなるとあと数十年は先かな」 ◆◆◆ 完結 ◆◆◆
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