マジカルグラス

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 男はそのあとも、様々な人間に出くわした。  女に暴力を振るう男を見つけて警察に通報しては、愛があるから良いのとその女に恨まれ、座り込んだまま動かないやせ細った女に食べ物を与えようとしても、私を太らせる悪魔だと罵られたりした。そんな様子を我関せずといった感じで傍観する者たちにも、どこか違和感を感じていた。  再度公園に戻ってきた男は、虚無感と脱力感を両肩に乗せた重たい体をベンチに預けた。 「ああ、そうか」  男は思い出して、気だるげに眼鏡を外すと、瞼の上から眼球を揉んだ。 「恋しいんだな、俺は」  掌を力強く握ると、マジカルグラスはグニャリと形を歪めた。  男は静かに目を開けた。徐々に、はっきりと、男の目の前に現実の世界が広がる。そこは、生きた人間など一人もいない、戦争によって荒れ果てた、まるで現実とは思えない世界がそこにあった。 ◆◆◆ 完結 ◆◆◆
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