のろし

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 遠くで銃を撃ち合う音が聞こえる。  そして暫くすると、それは嘘だったかのように、辺りはシンと静まり返った。どちらの国が勝ったなんてわからないが、確実に言える事はある、また人が死んだという事。  何故ならここは、戦場だ。  僕の所属していた第二小隊もばらばらに散ってしまい、生き残っているのはきっと数名か、もしかしたら僕だけなのかも知れない。もう無線も通じない、誰かが助けにくる事もないだろう。  僕自身も、いったい何人の敵国の兵を殺してしまったのだろうか。僕が生きている事自体が、許される事なのだろうか。  懐に忍ばせた煙草とマッチを取り出した。 「最後の一本か」  そう呟いて、マッチをこすりつけ、最後の一本に火をつけた。ふうっと煙をはく、この煙草が消えれば、僕も死ぬのか。そう思わざるを得ない、なんとも言えぬ脱力感に襲われる。  ぼんやりと死について考えていた時、しまった! と思い、身体を固くした。いつの間にか目の前には銃を構えた敵国の兵士が、追い詰めた鼠を見るように僕をジッと睨みつけていた。そして、ジリ、ジリ、と静かに近寄ってくる。  僕は微塵も動く事が許されなかった。敵国の兵士が二メートルの距離で足を止めた、僕が急に動いたとしても反応できる距離だ。  奴は慎重で、冷静で、この戦場で何人もの人を殺している。僕と同じか、きっと、それ以上に。  奴は、静かに口を開いた。 「煙が昇っているのが見えた」  ああ、そうか、煙草の煙が目印となってしまったのか。僕は死を覚悟した、いや、もう覚悟していた。  最後の一本が吸えただけでも喜ばしいことだ。死んでいった仲間達はそれすらも許されなかったのだ。  煙草は静かに、悠然と、死ののろしを上げ続けていた。  だが僕は、敵国の兵士の次の言葉に驚いた。 「一口、くれないか」
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