のろし

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 僕は両手を上げて、そして持っていた煙草を差し出した。敵国の兵士はそれを受け取り、煙草を咥えると、すうっと深く吸い込み、そして吐き出した。 「……うまいな」  その言葉に僕は、 「ああ」  と頷いた。  そうして二人、静かにその場に座り込んだ。 「戦況はどうなんだろうな」  僕は問いかけてみた。 「わからない。俺達鉄砲玉みたいな者には必要のない情報だからな」  どこの国も一緒か。  僕は思わず苦笑いを受けべると、奴も同じように苦い顔をしていた。  なんだ、一緒か。  一口ずつ順番に吸っていた煙草は随分と短くなっていた。 「この煙草が燃え尽きたら、僕達はまた敵同士か」  僕が思わず口走ってしまった言葉に、敵国の兵士はピクリを肩を動かしてから、僕を見つめた。すると敵国の兵士の顔が少しほころんだように見え、口を開いた。 「そうだな」  僕は短くなった煙草を、そっと石の上において立ち上がった。それを見た兵士も、静かに立ち上がった。 「おいしかった、ありがとう」  そう言って兵士は地面に置いていた銃を手に取った。 「次に会う時は、笑顔で会えるといいな」  僕もそう言い残して、置いていた銃を手に取り、背中を向けた。 一歩。  敵国の兵士から離れていく。 二歩。  敵国の兵士も同じように、僕とは逆方向に歩みを進めた。 三歩。  僕は振り返り、敵国の兵士に銃を構えた。敵国の兵士も同様に、銃を構え僕を睨みつけている。  その睨みあいの中心、今にも燃え尽きそうな煙草から、一筋の白い煙が立ち昇っている。  撃てばどちらかが確実に死ぬ。いや、二人とも、死ぬ。  覚悟はある。でも、どうしても、引き金を引くだけの力が入らなかった。  撃てない。いや、撃ちたくない。  僕はそっと、銃を下ろした。  奴も、同様だった。  一歩、二歩、離れていたお互いの距離が縮まっていく。  三歩。  そうして、固く、握手をした。  平和を願う気持ちは、どこの国でも変わらない。  煙草はとうとう燃え尽きた。最後の煙が空に溶け込むのを、二人はずっと見上げていた。  そうしてここに、小さな二つの人間から、希望という名の小さなのろしが上げられた。 ◆◆◆ 完結 ◆◆◆
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