真夏の幻影

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 ある夏の昼下がり、小学二年生の健一は木の枝や石を使って、ただただ蟻の行く手を遮るという遊びをしていた。要するに、暇だった。  良く遊ぶ友達は皆、旅行や親の里帰りでおらず、時間を潰すという意味では夏休みの宿題というものがあるが、健一はお盆手前にも関わらず絵日記以外の全て終わらせていた。 「お母さん、暇だからプール連れてってよ」  健一の言葉に、母親は顔をしかめて言った。 「暑いから外になんて出たくありません」 「暑いからプールに行くんじゃんか」 「嫌です」  健一の頭にプカリと良いアイデアが浮かんだ。プールがダメなら川に行こう。プールより近いしお金もかからない。 「お母さん、遊んでくるね」 「こんなに暑いのにどこ行くの?」 「いい所」  母親はピンときたのか早々に釘を刺した。 「川には近づいちゃダメだからね。昨日の雨で水量が増えて危ないんだから」 「えー? 大丈夫だよ」 「絶対にダメ。行くなら夕飯は抜き」  健一は口を尖らせながら考えた。足だけ入るくらいなら、帰るまでに乾かせば絶対にバレやしない。 「わかったよ。それじゃ行ってきまーす!」  健一はビーチサンダルを履いて、勢い良く玄関から飛び出していった。
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