夜の商売

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 深夜〇時、大通りに通ずる道に一台の車が止まった。  その道は近くに大きな自動車工場があり、朝夕は通勤の車、日中は物資を輸送するトラックが激しく往来しているが、夜ともなると人っ子一人歩いていなかった。  鮫島は車の窓を開けて、煙草を吹かしながら静かに獲物を待っていた。  日中の内に近隣の地理を調べて、工場の更に先に小さな住宅街があることを知っている。住人が夜中に急に食料や雑誌などが必要になることもある。その場合、この道を通って大通りに出るのは必然だ、と鮫島は踏んでいた。  鮫島は、当たり屋だった。悪い保険屋の友人と共謀して、金が底を尽きると車をぶつけられるように仕向け、弱者のふりをして慰謝料や示談金を本物の弱者からせしめるのだ。  その時、一台の車のヘッドライトが鮫島の車のサイドミラーに反射した。鮫島はエンジンをかけたまま車のライトを全て消して、獲物を狙うライオンのように息を潜めた。相手をじっくりと見定める必要があるからだ。  高級車は妙に学の立つ奴や本物のヤクザの可能性が高い。運転手が若い男の場合もキレて襲ってくる可能性がある。狙うのは女か老人、鮫島はそう決めていた。  車が鮫島の横をゆっくりと走り抜けていった。三十代、女、軽自動車。  鮫島はすかさず車のアクセルを踏んだ。
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