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 でも、もはや、そんなことはどうでもいい。残る力を全て出し尽くしてしまった僕には、もう別のものに燃え移るだけの力すらも残っていない。僕に残された時間は、あと僅かしかないんだ。  すると、何を思ったのか、少女が僕に近づいてくるではないか。これは好都合、少女の服にチラとでも触れることができれば、僕はまだ生きることができる。それどころか、少女も、もう一人の人間も糧にしてしまえば、この身をまた大きくすることもできるし、新たな糧が得られる機会を待つこともできる。僕は少女の行動をじっと見守ることにした。  少女は僕の目の前でしゃがみこんだ。そして、木の破片の上でクスクスとしている僕を、木の破片ごと両手でそっと持ち上げた。ジジジ、と少女の手の平を焼いた。それでも少女は僕を落とすことなく、目の前に据えた。  僕の体は、今にも燃え尽きてしまいそうだ。もうちょっと、もうちょっとで、そのぼろぼろの服に焼き移れるんだ。そんなことを考えていた僕をよそに、少女は呟いた。 「ありがとう」  僕の思考が氷になったみたいに固まった。  僕はもう一度大きな炎となって、大地を焼き尽くして、僕という存在を世に知らしめてやる――つもりだった。それが、この世に生まれた僕の宿命だと思っていたからだ。  それなのに、それなのになぜだろう。凄く、心地が良いんだ。僕は山の木々を焼き払うことができる。でも、僕の存在は、生きる価値は、それだけではないのかも知れない。 「お母さん、見つかったよ。一緒に探してくれてありがとう、炎さん」  少女の目から流れ出た一粒の雫が、ジュッという音を立てて僕を包み込んだ。視界がその潤いで歪んだせいか、自分でも眩しいほどに僕の体が光り輝いた、そんな気がしたんだ。  そうして僕は、この世から消えた。 ◆◆◆ 完結 ◆◆◆
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