43人が本棚に入れています
本棚に追加
/76ページ
夕日が沈みかけた公園で戦争が勃発した。
「このすべり台は東町のものだ」
ブランコに揺られながら東町の子供達がそう主張する。
「いいや、西町のものだね」
等間隔に並んだ切り株を巧みに渡りながら西町の子供達が声を揃える。
公園を挟んで学区の分かれる東町と西町が、すべり台がどちらの学区の所有物なのかを言い争っているのだ。
「よく見てみろ、階段が青いじゃないか。青は東町の色なんだよ」
そう東町の一人が言うと、
「すべり坂の横は赤じゃないか。西町のだから赤なんだからな」
返す刀で西町の子供が声を上げる。
お互い譲らず、いがみ合いは続いていた。そんな様子を見ていたベンチに座っていたおじいさんが静かに口を開いた。
「すべり台は、よーく見てみると、象さんに似ていると思わないかな?」
これには両者とも呆気にとられた様子で、キョトンとすべり台を眺めているだけであった。
「ほんとだ!」
「あれが鼻で、あれが体だ!」
これには東も西もあったものではない。
カラスが母親達を連れてきた。
「夕ご飯の時間よ。みんなにバイバイして」
母親達がそう言うと、子供達は一斉に手を振って、振ったその手で母親の手をしっかと掴んで帰っていった。
おじいさんは大きく二回頷いてから、しわくちゃの顔をさらにしわくちゃにして一人呟いた。
「夕日に伸びる手をつないだ親子の影は、象さんの親子に似ていると思わないかな?」
◆◆◆ 完結 ◆◆◆
最初のコメントを投稿しよう!