消えてしまいたい

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「愛してるよ」 「嬉しいわ、私もよ」 綺麗にライトアップされた橋の見える公園で、男と女が囁きあう。 だがその囁きを、通りかかった酔っ払いが耳にしてしまった。 酔っ払いは泥酔しているかのように真っ赤な顔で不気味に笑うと、その刹那、持っていた一升瓶で男を殴った。 倒れた男の頭部から、ドス黒い血が流れ出している。 「誰か、助けて~」 女が叫んだ瞬間、上空の円盤型の物体から出た光が酔っ払いを照らした。 すると酔っ払いはみるみるうちに上空に舞い上がり、円盤の中に吸い込まれると同時に、何事もなかったように夜空に消えた。 呆然とする、残された女。 その一部始終を、私は物陰に隠れて見ていたのだ。 一息ついてから、持っていた外星語辞典を開いて納得した。 「愛してる」という言葉は、ザーマ星では「殴ってほしい」と訳されるらしい。 「誰か、助けて」は、ホーラ星で「この人を、連れ去って」という訳であった。 地球がザーマ星やホーラ星をはじめ、全18の星と宇宙協定を結んで数ヶ月が経つのだが、地球に旅行に来た星々の連中は、まだ言語の違いについてはあまり意識していないようなのだ。 「なんということだ……」 私が溜息を言葉にした途端、トンと背中に違和感を感じた。 振り向くと、血のついた刃物を持った黄色い顔のトスラ星の青年がニヤリと私を見下ろしていた。 地面に伏した私は、消えゆく意識の中、トスラ星のページが開かれた外星語辞典に目を落とした。 「なんということだ」という言葉は、トスラ星では……。 ◆◆◆ 完結 ◆◆◆
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