孤高の達人

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 食事を済ませた源之助が歯の奥に詰まったご飯粒をかき出そうとして必死に舌を右往左往させていると、女中がそっと熱いお茶を置いた。 「ありがとう、丁度お茶が欲しかった所だ」 「お礼の言葉など勿体なく存じます。玄関にお車を回しておきましたので、いつでもご出立下さい。先生、どうか体に気をお配りなさって、お仕事へ行ってらっしゃいませ」  女中はガラスの灰皿をコトリと置いて、台所へと姿を消した。一人残された源之助は食後の一服を味わいながら、陰鬱な仕事のことを頭によぎらせた。 「仕事、か……。こんなことを仕事と呼んでもいいものだろうか……」
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