太古の星

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 湖の周りには地球上のシダに似た植物が生殖していた。湖の中を覗き込むと、視界の端に一瞬黒い物体がよぎり、男は声を上げそうになった。注意深く見てみると、それは魚であることがわかった。 「生きている魚がいる。地球にも存在したような魚のようだ。調べてみてくれないか」  宇宙服にはカメラが付帯され、男の見た映像は船に送られる仕組みになっていた為、船からはすぐに応答があった。 「これは地球にも存在する魚で、シーラカンスという名だ」 「太古の昔から存在し、その形をほとんど変えないというあのシーラカンスか。これは驚きだ、ここは何千年も前の地球と同じ環境だということか」  男は喜びに胸を躍らせた。遠くの方でキラリとした光が男の目に入ったように感じたが、何か光る鉱物でも存在するのだろうと思い、男の心はさらに高揚した。 「大自然が変わらないまま存在するなんて。この星は人間が住むに値する星に違いない。この星をシーラカンス星と名付け、やがて沢山の人間がここに渡り住むだろう」  男が調査用の小さな瓶に湖の水を入れようとした時、左の太ももにキラリとした糸のようなものが刺さっていることに気がついた。男がそれに触れようとした直後、男の体は硬直し、その場に倒れこんだ。 「なんだ、急に体が動かなくなった。早く助けてくれ」  船からの応答はなかった。何度かの問いかけにも同様に、船から通信が入ることはなかった。男が問いかけるのを止めると、背後から足音が聞こえ、それが段々と近づいてくるのを感じた。 「誰かいるのか? 体が動かないんだ、助けてくれ」  男の問いに対する答えはなかった。男は自分の背後に複数の生物の存在を感じていた。男の声は次第に細くなっていった。意識が遠のいていく中、かろうじて視界に入った湖には、緑色の大きな楕円形の頭の生物と紫色のギザギザした頭の生物が映っていた。
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