シャッターチャンス

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「今回も収穫はなしか……」  青年はため息交じりに呟きながら防波堤に腰かけると、首にぶら下げたカメラを手持ちぶさたな様子でいじくっていた。 「おーい、そんな場所で自殺なんてするんじゃねーぞ」  青年ははっと顔を上げると、波が打ち寄せる岩間にぷかと浮かぶ中年の男を見つけた。 「自殺なんてしませんよ。あなたこそ、そんな所で何をしてるんですか?」 「何って、晩ご飯の貝を採ってるんだ」  中年の男は、岩に積まれた貝を指さしてケラケラと笑った。  青年は、上半身は裸で、素潜りで貝を採っている中年の男に対して、地元の住人なのだという印象を抱いた。そして、地元の人ならば、という淡い希望を持って中年の男に話しかけた。 「実は、私は珍しいものを写真に撮りたいと思っているのです。そこでお尋ねしたいのですが、この辺りで昔、河童がいたという話を聞いたことはありませんか?」 「河童ぁ?」  と、中年の男はひとしきり笑ってから、 「河童は川に住むのが相場だ。残念ながらここは海、悪いが俺は海専門だ」 「そうですか……」  青年が残念そうにうつむく姿を見て、中年の男は間髪を入れず青年に話しかけた。 「なに、そんなに落ち込むことはない。そうだ、二つ先の村の山奥では、天狗が住むという神社があると聞いたことがある。行ってみたらどうだ?」  青年は深いため息を零した後に、 「実はもうそこにも行ってきました。けれど、神主さんからありがたい長話をいただいただけです。それで一縷の望みを賭けて、昔河童がいたというこの村へ寄ってみたのです」 「そうだったのか」 「外にもツチノコ、鬼、雪男も全部ダメ。座敷わらしが出るという家にも泊まってきましたが、寝ずにカメラを構えて写真に収められたのは、その家の軒先にぶら下がっていた大根を狙って山から下りてきたイタチ一匹だけでした……」
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