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ある日の昼下がり、N老人はS老人宅に向かって歩いていた。二人は老人会が主催している朝の体操の場で知り合い、お互い定年後に伴侶を失っていたこと、将棋が趣味ということで話が合った。その日は一局手合せをする段取りとなっていた。
N老人が呼び鈴を押すと、いらっしゃい、とS老人の息子の嫁が出迎えた。S老人の息子の嫁の身なりはきちんとしていて、落ち着いた口調であったため、N老人は清楚で控えめな美人という印象を持った。N老人は、つまらないものですが、と持ってきた風呂敷を渡し、家にお邪魔した。
N老人が和室に通されると、
「よくぞいらっしゃいました」
と、S老人が出迎えた。
「いや、昼間から上がり込んですまないね」
「何を仰いますか。わざわざお越しいただいて恐縮です。ですが、これは負ける訳にはいきませんがね」
S老人は目の前に用意していた木製の将棋盤をトンと叩いた。
「これはこれは、立派な将棋盤ですね。望むところです」
こうしてN老人とS老人は将棋に没頭した。
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