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S老人はN老人を連れ、和室で対局を再開させた。
N老人の胸中では、なんなんだあの料理は、あんな不味いものは食べたことがない、S老人はあんなものを毎日食べているのか、あの嫁は良妻のように見えて料理はからっきしなのか、なにが「お粗末様でした」だ、本当に粗末が過ぎて何も言えん、と将棋になどまるで集中できないでいた。そうこうしている内に、N老人は負けてしまった。
「いや、良い勝負でしたな」
と、S老人は満悦そうに言った。
「え、ああ、そうでしたな。これは、どうも、参りましたな、ははは……。さて、夜も更けて参りましたので、これで失礼するとしましょう……」
N老人はそそくさとS老人宅を後にした。将棋の結果などまったく気にせず、一体あの粗末な食事はなんだったのだ、ということだけを頭の中に巡らせながら、N老人は帰路に着いた。
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